魚肉瓶詰最新画像ROBINBUNYA sience 2000.09.03

黒き獣は死を連れて

2006/05/16
「黒き獣は死を連れて」

深き闇さすマントルの下
遥か天上から差す陽光の恵みにどれほど心踊ったものでしょうか
鳥のさえずり、木々の葉の擦りあうささやき
柔らかな光、柔らかな香り
三つ首の獣は、遥か遠く天上の調べに酔い日々を過ごしておりました。
ある日、一の首が言いました
「ああ、兄弟よ、この先に我らの夢見たつ淡やかな光持つ国があることだろう」
二の首がいいました。
「そうだ、兄弟よ、遥か向こうで謡う鳥の調べに心合わせる国があるのではないか」
三の首がいいました。
「では、行こう兄弟よ」
三つ首は重き体を立て、深い闇を淡やかにさす光の調べに向けて歩き出しました。
三つ首に身体に灯った業の火は、地上に向かい猛る炎を咲かせておりました。

鳥が鳴きました。
一の首が言いました。
「なんと美しい声か、その姿を眺める時を思えば 何たる幸せよ」
マントルから湧き上がる三つ首の激しい火炎流に、三つ首住まう山の間欠泉は噴出し
激しい蒸気は鳥たちを蒸しあげました。

魚たちが水を伝いました。
二の首が言いました。
「なんと、美しき音、陽に照らされた水面におもう群れを願うこの幸せよ」
命激しき火山に、山の水面は沸き立ち、三つ首住まう山の清流は
ずべて、休まることなく煮たちました。

風が木々をさえずらせました。
三の首が言いました。
「なんとやさしき歌声よ、時を持ち、そそり立つ素晴らしき土のものよ、その歌願うこの幸せよ」
三つ首が地上に現るる、その時、火の力と風の力は抗い、激しい爆風が起きました。
数十年の時を過ごした木々は吹き飛び、燃え、激しい風に灰が飛び散りました。

明ける陽光をみて、三つ首は地上に面をあげました。


「わたくしは悲しみを連れて歩きたかったのでは無いのです
マントルに差し込む あの淡やかな陽光を
この目で見たいと願ってしまったのです」
黒き獣の嘆きに答える声はなく 世界は灰の下に沈黙ておりました。

三つ首の獣は激しく悲しみ、嘆きました。

応えるもの無く、全ては死の下におりました。




それから、三つ首は力の限りに、森を復興する為に尽力を尽くしたと言うお話を聞いております。
命終え、火尽きた三つ首は花咲く石となり、森の奥深くで
森に住まう全ての命たちの憩う場所となったといいます。

むかし、むかしのお話でございます。

ILLUST
up deta 2006.06.06